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Tatsuko

『したきりすずめ』にしろ『こぶとりじいさん』にしろ『おむすびころりん』にしろ、
だいたい善良な主人公の隣には強欲な夫婦が住んでいるもので、
善良な主人公には善きことがある一方で、
真似をした欲張り者はひどい目に遭わされると相場が決まっています。

同じような構成の説話が多いのは、
おそらく趣旨というか、意図が似ているからでしょう。
つまり、大人たちは、こういう説話を通じて、
子供たちに「善良に生きねばならぬ」という教訓を与えているわけで、
説話は、教育効果を狙った装置であると言えるでしょう。

さて、そこにきて、最近の私が興味を持っているのが、
田沢湖に伝わっている辰子姫の伝説です。
まぁ、「たつこ像」で有名ですよね。

たつこ像

 むかしむかし、田沢湖の近くに、まれにみる美しい娘、辰子がいた。
 辰子はその美しさと若さを永久に保ちたいと願い、
 密かに大蔵観音に百日百夜の願いをかけた。
 満願の夜、観音菩薩が現れ、
 「北に湧く泉の水を飲めば願いがかなうであろう」とお告げがあった。
 辰子が山を越え、深い森の道を北に向かうと、清い泉があった。
 辰子は喜び、手にすくって飲むと、何故か飲んでも飲んでも喉が渇き、
 ついには腹ばいになって、泉が枯れるほど飲み続けた。
 時が過ぎ、気がつくと辰子は大きな龍になっていた。
 龍になった辰子は、田沢潟の主となって湖底深くに沈んでいった。


……この話、どういう意味なのでしょうか。

不思議ではありませんか。
泉の水をガブガブ飲み続けた挙句、姿を変えられるという描写は、
印象として「バチを当てられた」感がありますが、
仮にそうだとして、彼女は別に誰かを陥れたわけでもなく、
ただ、自分の問題というか、若い娘特有の執着として、
いつの日か衰えていくであろうその美貌を、
どうにか保ちたいと願っただけなのに、
それが、バチを当てられるほど悪いことなのでしょうか。

たとえば、同じように水をがぶ飲みして龍になった人は他にもいて、
十和田湖から八郎潟に移った八郎太郎なんかも有名ですが、
彼は、仲間内の掟を破って、他人の分までイワナを食べたため、
33夜に渡って水を飲み続けて龍になったと言われています。
イワナの独り占めがどれほどの重罪なのか私には分かりませんが、
まぁ、自分勝手な振る舞いだったことは間違いないので、
百歩譲って、バチが当たっても致し方ないかもしれませんが、
色褪せない美貌を願っただけで処罰されるというのは、
なかなか厳しいものです。

そして、そのバチを当てたと思われるのが、
観音菩薩であるというのも興味深いですね。
百日百夜、観音菩薩に美貌の維持をお願いし、
百夜目に回答があったと思ったら、期待と違う結末。
辰子も龍になった瞬間、
「えっ、いや、龍にして欲しかったわけじゃなくて!」と、
観音菩薩の納品ミスを恨んだに違いありません。

観音菩薩が勘違いしたのか、
それとも何か、私には分からない深遠な意図があるのか、
どうなのでしょうか。

ちなみに、前述の、イワナの独り占めで龍にされてしまった青年・八郎太郎は、
同じく龍となってしまった田沢湖の辰子姫の噂を聞きつけ、
毎冬に田沢湖に通っているうち、
冬だけ一緒に過ごす、通い婚の夫婦となったそうです。
また、辰子姫は田沢湖畔にある御座石神社の祭神にもなっています。

御座石神社

たつこ、思い通りに生きてごらん……と、
これはたつこではなくて Sachiko(by ばんばひろふみ)ですが、
辰子姫も、バチが当たったとはいえ、夫にも恵まれ、神様としても祀られ、
存外に幸せかもしれませんねぇ。

ところで、関係のない話ですが、
田沢湖近辺の道路標識なんですが、
この、外国人観光客をどんどん増やそうという時代に、
「たつこ像」を「Tatsukozo」って、どういうつもりなんでしょうか、ね。

交通標識

[SE;KICHI]
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