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小粋な調べ

存在を知ってから興味を持つまでに、私は30年もかかってしまいましたが、
御詠歌というものがございます。

かつて、西国三十三所霊場について書いたことがあったと思いますが、
これは、平安時代から伝わっている日本最古の巡礼コースで、
現在の2府5県にまたがっている総延長は1000kmにおよびます。
古くから、西国三十三所の観音菩薩を巡礼参拝すると、
この世で犯したすべての罪業が消滅すると言われているため、
多くの人がその功徳を願って巡礼をしてきたと伝えられていますが、
現代の私たちからすると、総延長1000kmを歩くなんて、正気の沙汰ではありません。

さて、この巡礼には御詠歌というものがあるのです。
基本的に、“歌詞”の内容は、祀られている観世音菩薩を讃えるものですから、
キリスト教でいうところの賛美歌みたいなものでしょう。
たとえば、教会での葬儀に参列すると歌われる賛美歌320番。
映画『タイタニック』で船が沈む時、最後に楽団が演奏したアレです。


左 アカペラ https://www.youtube.com/watch?v=94XDAo7T1FU
右 映画『タイタニック』 https://www.youtube.com/watch?v=1_3ndgpggoM


タイタニック沈没の際、状況的に、もはや死は避けられぬと見た乗客たちですが、
宗教的な法悦に意識を向けることで、死の恐怖を抑えようとしたのでしょう、
沈没に際し、ヴァイオリンを弾いた者がいたかは分かりませんが、
自然発生的にこの賛美歌320番が歌われたことは史実だそうです。
そういう生死を分ける場面と同列に論じていいのかどうかは不明ですが、
総延長1000kmの西国巡礼も、かつては徒歩で巡っていたわけで、
決死の覚悟で歩き続け、ようやく札所に到着し、
自らが犯したすべての罪業が消滅するようにと薄暗いお堂で一心に祈る時、
おそらく、ある種の宗教的法悦の境地に至る、
そういう効果があったのではないかと感じています。

ところで、面白いのは、この御詠歌、西国巡礼の33寺、すべてで異なる点。
キリスト教でいうと、教会ごとに讃美歌が違う状態です。
寺ごとの“指定曲”って、各駅の発車メロディーみたいなものでしょうか。

曲といっても、平安時代発祥ですからポップなものではなく、
鉦の音に合わせて短歌のようなものにフシをつけて詠う感じです。
たとえば、みなさんよくご存知の、京都・清水寺。
ここは、西国巡礼の第十六番札所なので、御詠歌があります。

https://www.youtube.com/watch?v=PMFTC1LVNSk

どうですか、不思議でしょう。
何キロも歩き続け、ようやく着いたお寺の、薄暗いお堂で一心に祈る巡礼者。
揺れる灯明の中、どこからかこんな曲が聞こえてきたり、または自ら口ずさめば、
宗教的にハイになること請け合いです。

ところで、私は、実は、御詠歌の節回しにはそんなに興味がありません。
私が興味を持っているのは、“歌詞”。
清水寺の場合は、
松風の 音羽の滝の 清水を むすぶ心は 涼しかるらん
・・・・・・どうです、微妙でしょう。
御詠歌は、短歌と同じ基本字数でありながら、
季語を入れたり韻を踏んだりといった芸術性は、ほとんどありません。
というのも、御詠歌は貴族の遊びなどではなく、
巡礼する庶民に仏の功徳を知らしめるために作られたからです。

いくつかご紹介しましょう。

第八番札所・長谷寺。
奈良の奥のほうにある、西国巡礼のほぼ発祥のお寺で、
像高10mもある十一面観音がご本尊です。
御詠歌は、
いくたびも 参る心は はつせ寺 山も誓いも 深き谷川」。
何度お参りしても初めて訪れたような気がする長谷寺。
その観音様の慈悲は、谷川のようにとても深いものです・・・という歌で、
要するにご本尊賛歌的な意味合いを持つ御詠歌です。
“はつせ寺”というのは“初瀬寺”と書いて“長谷寺”の古称で、
“初めて”というのと“初瀬寺”というのが掛けてあったり、
“山も誓いも深い”と、大喜利のような表現があったりと、
けっこう遊びも盛り込まれていて、楽しい御詠歌です。

第十番札所・三室戸寺。
宇治にあるこの寺は、『源氏物語』の宇治十帖ゆかりの寺です。
御詠歌は、
夜もすがら 月を三室戸 わけゆけば 宇治の川瀬に 立つは白波」。
夜どおし、月を見ようと三室戸に向かって分け入り、
宇治川にさしかかると、その川瀬に白波が立っていました・・・という歌です。
さきほどの長谷寺の御詠歌は仏の慈悲深さを伝える感じでしたが、
ここ三室戸寺の御詠歌は、なんか、静謐な水墨画のような情景が目に浮かびますよね。
また、月を“見ようと”に“三室戸”を掛けてあるところに、文学的なオシャレを感じます。
ちなみに、節回しは風雅で高貴な感じで、他寺にはない雰囲気です。

第十八番札所・六角堂。
本当は、華道家元・池坊が住職を務める頂法寺というお寺なのですが、
本堂が六角形なので、通称・六角堂と呼ばれて親しまれています。
御詠歌は、
わが思ふ 心のうちは 六つの角 ただ円かれと 祈るなりけり
私の心のなかには6つの鋭い欲があるのを感じます。
その角ができるだけ丸いものであってほしいと祈るばかりです・・・というこの歌、
6つの鋭い欲というのは、
仏教で説かれている、六根(眼・鼻・耳・舌・身・意)から生じる欲のことです。
いわゆる「お説教」という感じもあって、
長谷寺の観音賛歌とも、三室戸寺の情景の美しさとも、
だいぶ雰囲気が異なる御詠歌になっていますね。

まぁ、再生する人はいないかもしれませんが、いちおう。


長谷寺 https://www.youtube.com/watch?v=YNXhLNu1HnE
三室戸寺 https://www.youtube.com/watch?v=924jFRk2V6U
六角堂 https://www.youtube.com/watch?v=NWgVTEhAwIQ


御詠歌、個性的で面白くないですか。
かくいう私も、存在を知ってから興味を持つまでに30年もかかりましたので、
ご紹介したところでなかなか関心を持ってもらえるものではないと承知はしていますが、
だまされたと思って聞き比べてみるのも面白いかもしれません。
ただ、最近は札所でも、あんまり御詠歌を歌っている方は見かけません。
せいぜい般若心経とご真言(ご本尊ごとの呪文のようなもの)を唱える程度で、
少し寂しい感じもします。

ちなみに、私の感覚では、
第四番札所・施福寺とか第十一番札所・上醍醐寺とか、
山門から1時間ほど山道を登らねば札所に到着しない寺もあって、
そういうお寺では、着いただけで息が上がっていて、
歌なんか歌えるかっ!という気分にもなりますが、
昔の人は平気だったんでしょうか。

[SE;KICHI]
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