“おもてなし”のジレンマ

少し前、ちょっとそそのかされて講習やら試験やらを受け、
“おもてなしエキスパート”という称号をいただく機会がありました。
その試験は運転免許の学科試験くらい簡単なのですが、
試験とは別に、改めて“おもてなし”について考えてみると、
意外と奥が深いというか、ジレンマを抱えているような気がします。

これまた少し前、さりげなく台湾に行ってきたのですが、
現地でランチを食べようと寄った屋台みたいな横丁でのこと。
そこのレストランでは、ランチのセットということで、
A~C の3つから好きなメイン料理を選べるようになっていて、
私は、A の菜脯蛋(切干し大根入り卵焼き)にするか、
B の蔭鼓蚵仔(牡蠣のモロミ炒め)にするか、
けっこう悩んだ末に、B の牡蠣を選びました。
ほどなく運ばれてきた牡蠣は確かにおいしいものでした。
しかし、私は、選ばなかった A の卵焼きが気になって仕方ありません。
長い滞在ならまた今度にしようと思ったかもしれませんが、
そのときの滞在期間はたったの2日だったので、
私は店員さんを呼び、思い切って言ってみました。
そっちも食べたい、と。

というのも、周囲で食事をしている台湾人を見ていると、
たとえば「このおかず、おいしいからもっとくれ」とか、
「これは口に合わないから減らしてちょうだい」とか、
食べている最中に店員さんを呼び、
意外と好き勝手に何か要望している感じがしたのです。
呼ばれた店員さんも、それを増やしたり減らしたり、
お客さんの要求に応えている感じだったので、
もしかしたら、頼めばどうにかしてくれるシステムなのかもしれないと思い、
勇気を出して A の卵焼きも食べたいのだと言ってみたわけです。

結果、どうだったか。
店員さんは私に「OK!」と言い、私の前に空の皿を置いてから、
いったん厨房に去ったあと、鍋を抱えて再び現れ、私に言いました。
「どれくらい入れましょうか」と。
店員さんは私の指示通りの量の卵焼きを皿に盛りつけ、
そしてさらに、こう言うのです。
「C の客家小炒(豚肉と堅豆腐の炒め)もおいしいよ。要るかい?」と。

つまり、ちょっと欲しがった A の卵焼きを気前よくもらえたばかりか、
C の豚肉の炒め物もくれるというのです。
しかも、その分の追加料金などはいらないと言うではないですか。
日本ではどうでしょうか。
まず、B のセットを注文しておきながら、A のおかずも欲しいと申し出たところで、
おそらく「そういうのはちょっと・・・」と断られるのがオチでしょう。
それでも、どうしても食べたければ、
その分の追加料金を支払うからと食い下がるかもしれませんが、
「すいません、そういうのはやってないんで・・・」と言われるに違いありません。
おそらく、そういうイレギュラーはマニュアルに載ってないのでしょう、
マニュアルに載っていないことは不可ということですね。

これは、店側の都合ですよね。
そのおかずが、そこにないわけではないでしょう。
提供している以上、そこには必ずあるはずです。
しかし、それを提供できないというのは、
提供できないのではなく、店側の都合で、提供しないということです。

もちろん、私も組織で働く人間ですので、
ガバナンスというか、マネジメントの観点から、
顧客からの妙な要求に全部応じていたら収拾がつかぬというのは分かります。
そして、そのことが、日本の社会のなかで、
ある程度の正当性を持っているということも知っています。
そのうえで、私が言いたいのは、
日本ってそんなもんだということです。

近年、日本の“おもてなし”は丁寧で立派だと喧伝されていますが、
それは果たして本当でしょうか。
たとえば、テレビの「老舗旅館の美人女将特集」などを見ていると、
朝は早くからお客を送り出し、車が見えなくなるまで頭を下げ、
昼間は小走りで、料理を試食したり、花をいけ替えたりと休みなく、
夕方は新たなお客が到着するのを、玄関でお出迎え、
夕食時は各部屋を回って「女将でございます」と挨拶してみたり。
それを見ると、女将というのは忙しい仕事なのだなと思うのですが、
私には、その、女将が繰り出すサービスが、
顧客のニーズに合っていないこともあるのではないかと思えるのです。

多様性の時代ですから、顧客のニーズなんて、様々。
たとえば、夕食なんて半裸でテキトーに食べたいときもあるでしょう。
そういうとき、女将によるお部屋訪問は迷惑千万です。
もちろん、そんなの一律にやめちまえという乱暴な話ではありませんが、
いろいろなタイプのお客が来るでしょうから、
紋切り型の接客はベストではないはずです。
私も、宿泊先の温泉旅館のおもてなしの一環ということで、
女将手作りだというサシェをいただいたことがありますが、
それは果たして、顧客(私)のニーズを汲み取ったサービスなのでしょうか。
私がそれを喜びそうに見えたとでもいうのでしょうか。

そういう意味で、日本の“おもてなし”は繊細で丁寧で立派だと、
日本人としての誇りとともに紹介されたりしていますが、
それは、ちょっと贔屓目ではないかと思うのです。
少なくとも、欲しがってもいないサシェをお客に渡すことが、
繊細なおもてなしであるとは、私にはちょっと思えません。
それよりも、欲しがっているお客に欲しがっているものを与え、
「なんならもっといるかい?」と気さくに尋ねる、小汚い台湾の屋台のほうが、
よっぽど顧客本位というか、お客のニーズに寄り添っている感じがします。

上品で高級感あふれた演出が“おもてなし”でもないだろうと、思うのです。
そういう意味で、サービスが独りよがりになっていないか
それが本当に顧客のニーズを捉えているのか、
けっこう重要なポイントかもしれません。

[SE;KICHI]
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