FC2ブログ

蕎麦からの・・・。

全国新そば会”という、
神田のやぶそばとか、鎌倉の峰本とか、大津の本家鶴㐂とか、
そば好きには馴染み深い老舗そば店が加盟している会があるのですが、
その会が『新そば』という季刊誌を発行しています。
昭和35年創刊のこの雑誌、加盟店の紹介記事などが充実しているのですが、
毎号、各界のそば好きが寄稿している「そばエッセイ」がすこぶる面白く、
私はちょくちょく、この季刊誌を手に取ります。

今年7月発行の第155号には女優の若村麻由美さんが登場し、
そば職人を目指した若かりし日の思い出を綴っておられました。

そばのおいしさというものは、言うまでもなくシンプルなものです。
彼女がそば職人を目指したのは高校生の頃らしいのですが、
幼いころには理解できなかったシンプルな美味さを、
運命のそばとの出会いによって好きになったという、
小学5年生のエピソードが語られます。

彼女は小学5~6年生の2年間、信州に山村留学を経験されています。
親元を離れ、住民票を移して農家にホームステイし、
片道4キロを歩いて、全校生徒70人ほどの小学校に通っていたはずです。
村には山村留学生専用のそば畑があり、
そばの実を収穫すると、みんなで歌いながら、
実を叩いてそば殻を外し、水車に接続された石臼で潰して精粉したはずです。
自分が収穫した粉で打ったそばは、
格調高いそば屋ではなく、畑の脇に座り込んで食べたのだと思うけれど、
味は格別だったはずで、それ以来、彼女はそばが大好きになったと言います。

はず、はず、と、勝手に他人の人生を断定して話していますが、
この体験は、私にはよく分かります。
なぜなら、私も、彼女と同じ村に山村留学し、
片道4キロを歩いて、その小学校に通っていた経験があるから。
私の体験として、自分が収穫した粉で打ったそばの味は格別だったから。

ところで、そばの例からも分かるように、
山村留学生の農作業経験は古式ゆかしいものが多いようです。
そば畑以外にも、村には山村留学生専用の田畑があり、
米を作ったり野菜を作ったり、植菌してシイタケを栽培したり、
大豆から味噌を作ったりするわけですが、
たとえば米作りの場合、田起こしや代かきは鍬を使うし、田植えは手植え、
稲刈りはコンバインなど使わずに鎌で刈り取り、
そのあとは千歯こきや足踏み脱穀機で脱穀し、
唐箕で籾殻を吹き飛ばして米を選別するなど、
民俗資料館に展示されているような、江戸時代以来の農具を使いました。
当然、ホームステイ先の農家ではトラクターやコンバインを使いますので、山村留学生はどちらも経験します。
これが私の原体験です。
そして、おそらく、彼女も同じはずです。

いまだに季刊誌『新そば』にそのような話を寄稿するということは、
彼女の中に、その記憶が強烈に刻まれているということですよね。

その体験自体には、普遍性はないかもしれません。
体験した本人にだけ刻まれる心の糧なので、
話を聞いた他人に効力が及ぶようなものではないでしょう。
しかし、こういう、
自分だけの体験があると、
人は強くなると思います。

自分だけの達成感とか、成功体験とか、あの時聞いた歌とか、
それは別になんでも良いのですが、そういう記憶があると、
他人からどう評価されるか、褒められるか叱られるかに関係なく、
人は勇気を奮い起こせるし、強くなれるのだと思います。

今夏、弊社のy2k2さんのご子息が、小さくて大きい一人旅に出られましたが、
炎天下に 115kmを歩いてお遍路に回ったそうで、立派だったと思います。
この体験は、本人にとってかけがえのない自信になっただろうし、
今後の人生での糧になるはずです。
もはや、誰かに褒められようが叱られようが、
この体験が本人を守ってくれるのだと思います。

教育の専門家であっても、「子供は褒めて育てよう」とか、
「いやいや、ダメなことはダメと厳しくしつけなくては」とか、
しょうもないことを言う人がいますが、
私が接している範囲では、子供は自らの体験を通して自信をつけ、
自己を確立していくものだと思います。
もちろん、炎天下の 115kmは立派なことだから、
親として褒めてあげたい気持ちも分からなくはないし、
窃盗や強姦については、ダメなことはダメなわけで、
やはり親として、起こった結果については、叱らねばならぬとは思いますが、
褒めることも叱ることも単なる対症療法であり、根本治療にはなりません。

あんまり褒めていると、女優の息子のように、
褒められることがクセになってしまって機微の分からぬ人物になるし、
その結果、叱られるようなことを引き起こした場合でも、
そうなってしまった時点で、正しい自己確立には失敗しているわけで、
つくづく、親から離れた、
自分だけの達成感や成功体験が薄弱だと不幸だなぁと思います。

子供に対して必要なことは、
褒められようが叱られようが関係ない、誰が何と言おうと、
自分はこれをやり遂げることができたのだから大丈夫という、
自信をつけさせてあげること、
その場面をできるだけ用意してあげることかなと思います。
ちなみに若村さんには4人ほど兄弟がいらっしゃったと思いますが、
お父さんは、兄弟全員に山村留学を提供しているはずです。
山村留学、タダではありませんので、苦しかったかもしれませんが、
そこに信念のようなものを感じます。

近年、主体的でない若者について、しばしば話題になりますが、
こういう、信念のベースになる糧を得るような、
大事な体験を積んでこなかったのだなと、ちょっとかわいそうに思います。
そういう意味で、今夏、y2k2さんのご子息が掴んだであろう糧は、
それはそれは貴重であったと思います。
良かったねと、素直に思います。
褒めも叱りもせず、良かったねと共感する。
この良かったねが、本人にとって何よりの賛辞だと、私は思います。

[AKA]
スポンサーサイト



コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

No title

私には6歳の娘がいるのですが、いろんな人から褒めて育てたほうがいいと言われて、それでもついつい叱ってしまって、すごく自分を責めてしまっていました。
共感してあげるのが大事ということ、目からうろこでした。救われました。ありがとうございました。
プロフィール

kkseishin

Author:kkseishin
株式会社セイシン
私たちは工場設備機器を中心に、お客様にご提案・販売をしている総合商社です。

■富山本社/〒930-0821
富山県富山市飯野16番地の5
TEL:(076)451-0541
FAX:(076)451-0543

■新潟営業所/
〒950-1142
新潟県新潟市江南区楚川甲619番地6号
TEL:(025)283-5311
FAX:(025)283-7469



URL:http://www.kk-seishin.com/

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR