話は大きくズレますが、
U君について、もう少し詳しく話しておきたいと思います。
U君は、ほんの2年前までは、まだ実家暮らしでした。
彼は成人する前から、早く一人暮らしがしたいと言っている、自立心が高い方でしたが、
彼が就いていた自動車整備士の仕事では、給与の面で待遇が芳しくなく、
それがなかなか叶わなかったのです。
それでも、
いつか必ず自分のショップを出すんだ!と決意し、
今いる場所で目の前のことに全力で取り組み、
技術を身に付けるために必死に取り組んでいました。近くで見ていたのでよく分かりますが、
彼は自分の失敗や足りないところを反芻し、認め、
改善すべきことを明言し、取り組んでいくことを絶えず繰り返す、
アスリートタイプというか、職人気質のある人間でした。
私も彼のそんなところが尊敬できる、素晴らしい点であると思っていました。
そんな彼は4年前に、連鎖取引販売
(俗に言うマルチ商法)に出逢います。
詳しいことは分かりませんが、私たち親しい友人らの知らないところで、
出会い系サイトで知り合った子から勧誘を受け、
それに肩入れをし、自らも始めたのがきっかけと言われています。
かなりゴリゴリの信者っぷりで、近しい友人たちに片っ端から声を掛けては、
商品の勧誘の為、仲間内パーティーや食事の誘い、商品説明に勤しみ、
その度に友人たちから顰蹙を買いはじめていました。
3ヶ月で月1000万を簡単に稼ぐとか、絶対に儲かるビジネスだからとか、
1年後にはフェラーリ乗っているとか、
現実離れしている、ていのよい金儲けの話にうんざりした多くの友人から距離を置かれ、
縁を切る人達も続出しました。
A君も、そしてI君も同様に勧誘を受け、距離を置くようになっていきました。
特に、仲の良かった親友のF君はとても仲が良かったのに、
絶縁宣言をし、怒鳴り声で彼とは金輪際関わらない!と私に電話してきた日は、
本当に衝撃でした。
遂には、親友たちが集まったF君の結婚式に、U君だけ呼ばれませんでした。
このことは、F君にとっても本当は哀しいことであったと思います。
その後、私自身も勧誘を受け、
その気が全く無かった私は、逆に彼にやめたほうが良いと説得することにしました。
F君の話も出しながら、今のやり方をよくよく考え直し、
F君に謝って仲直りするよう諭しました。
しかし彼は、自身には一切非などなく、相手が聞く耳を閉ざしたじゃないか、
なぜ謝る必要がある?なぜ折角教えてあげたのに?の一点張りでした。
確かに彼の信じるそれには絶対の自信があり、
また我々が完全に否定する理由も無かった
(※個人の自由)ので、
辞めろ!とか悪だ!とは言えませんでした。
しかし、他の友人たちや周囲の人が、同じように拒否反応を起こし、
彼自身に対して否定のメッセージを出し、どんどん離れていっていることに、
彼自信は気付きませんでした。
(気づこうとしなかった?)こちらの声が届いていなかったというほうが正しいかもしれません。
そもそも始めた理由を聞くには、
自分の店
(自動車のチューニングショップ)を出すための資金集めが目的だったそうです。
しかし、販売講習会というものが有り、
毎回5,000円も払って参加していると言うではないですか。
話を聞くにつれ、次第に仕事のためというよりも、
没頭していく彼は、目的と目標が混在し、見失ってしまっているのではないか、
既に私の知る、目標のために自己錬磨していたかつてのU君は、
そこにはいませんでした。
その後、何度も話しましたが水掛け論で、数時間。
そのことを機に疎遠となり、結局4年近く顔を合わせないこととなりました。
そして久々に本年の1月、
彼に連絡を取り、会うことになりました。
彼はいつの間にか整備士の仕事を辞め、営業の仕事に就いていました。
念願の一人暮らしも始めていて、立派に自立していました。
楽しそうに生活しているように見えました。
久々ということもあり、計5時間以上語り合う機会となりましたが、
彼は以前にも増して、マルチ商法へ熱心に取り組んでいました。
“俺は一生続けていくつもり”と言った彼には、
ここまでくると否定する気はあまりありませんでした。
とにかく話を聞こうと聞くことに徹し、少しでも理解し、
もう一度仲良くなりたいとさえ思っていました。
しかし、月に5万のロイヤリティーを受けつつも、友達から見放されている。
それでも順調だという彼には、とても3ヶ月で1,000万など不可能ですし、
どうもスッキリしないまま、その会は終わり、そこから再び10ヶ月。
何も連絡しないまま時が経ちまして、結婚式での再会となりました。
話が長くなりましたが、ここから
前回の続きです。
真実を確かめること、彼の真意を聞く、そしてこちらの思いを伝えること。
何点か言わなければいけないことを何度もアタマの中でシミュレーションし、
考え、その場に臨みました。
相手も緊張しないよう、私もお菓子やお酒など持参して訪問し、
手料理を作ってくれると言うので、気長に待ちながら、機会を伺っておりました。
途中、音楽の流れるBluetoothのスピーカーに、
彼の友人らしき人物から電話が掛かってきました。
何やら話し込んでいます。
またセッティングの機会を設けよう!とか、計画を練ろう!とか、
集団でBBQやスポーツを使って懇意となり勧誘する手段を取ろう!とか、
如何にもマルチ商法らしき具体的な話をし、その後20分も話し続けました。
一応、私という客人がいるのにも関わらず、断りもなくそんなに話しをされたら、
あまり良い気分にはなれませんが、そんなことも我慢我慢と押し殺して待ちました。
食事の後、小1時間は仕事や私生活など、
世間話をしつつ、雰囲気が柔らかくなってきたところで、本題に入ることとしました。
私「今からは真面目な話をする。今日は俺の話をなるべく聞いて欲しい」と振り、真剣な表情に変わる彼に聞きました。
私「A君夫妻の結婚式のご祝儀、払わなかったっていうのは本当か?
嫁さんから聞いたけど?」とストレートに言いました。
U「それは事実だよ」
私「そうか………、それは非常識だってことは分かる?
普通、結婚式に呼ばれたらご祝儀を包んで渡すのが通例なんだけど、知ってた?」頷く彼に、私は責め立てないよう、冷静に尋ねるトーンを心掛けて続けます。
私「どうして渡さなかったの? 持ってきてなかったの? 払えなかった?」
U「持ってきていたけど、渡すタイミングがよく分からなかった。
どうしようか分からないうちに、結局渡せず仕舞いに終わった」………
沈黙が少し続いた後、私は諭すよう話しました。
私「結婚式って初めてではないよね。
俺の従兄妹の時も来てくれたと思うけど、
普通は受付に来た時、署名する際に渡すものだよ。
渡すタイミングというのはその時点なんだけど、何で分からなかったかなぁ〜」
U「渡す気はあった。でも、特に出してくれということも言われず、
そのまま受付を済ませてしまったこともあったから。
結局お前らにも相談できずに」
私「なるほど。俺らにも聞けなかったと」
U「そう。最近会ってなかったし、いろいろあってなんか聞きづらくて。
正直、これで、お前らと会うのも最後かなとも思った」
私「なるほど………。だからと言ってこれはしてはいけないことでしょう。
確かに、こうなったことが俺らとのコミュニケーション不足というのも、
全く理解できないわけでもない。
しかしここ数年、俺から連絡してもLINEは既読無視、電話も出ない、
都合の悪いことがあったらブロックする。
それも君自身で招いたことではないのかい?」
U「………」
私「ちなみに金額はいくら用意してたの?」
U「…3万」ひとまずこの金額を聞いて、それが嘘ではないと少し確信できた私。
ここまでは鉄仮面で冷静に受け答えしていました。
しかし、ここで新婦のあの顔が浮かび、心中は穏やかではありません。
さらに、彼に対して言いたいことがあれやこれやと出てきました。
でも感情的になれば、彼に対して伝わることも伝わらないような気がしましたので、
怒りを込めつつ、彼に伝わるよう話します。
私「まず、このことを受けて1番ショックを受けたのはA君夫妻だよ。
これは紛れもない事実であり、彼らに対してやってはいけないことをした。
これはしっかりと反省し、謝らなければいけないことだと思うよ。
彼らは俺たち友人に対して、ただ結婚式に呼んだのではなく、
楽しんでもらおうと、時間を掛けて様々な準備をしてきた。
それは2人に聞いたけど、本当に苦労したのだってさ。
お金も掛かってるし、何より2人の想いが詰まっている素敵な結婚式だった。
もちろん我々側もビデオメッセージというカタチで、2人をお祝いしようと準備してきた。
いろんな人が工夫し、想いを込めて参加してくれたんだわ。
自分も県外行って撮ってきたし、I君は40万も出してカメラも用意した。
もっとも、I君なんかは君と連絡が取れなくなって、当日ドタキャンされたこと怒っていたよ。
反故にされた、U君のA君に対する想いなんてそんなものだって。
まぁ百歩譲って、我々のビデオはいいさ、こちらの都合だから。
でも、これは無いんじゃないのか?
ビデオにせよ、様々なカタチでお祝いすると思うけど、
ひとつ、お祝いの気持ちをご祝儀として表すというのも、
友達として、人として大事なことだと思う。
そもそもこれは常識なんだし。
また、来る時間だよ。
受付終了ギリギリになって、駆け込みみたいに来たでしょう?
例えば、受付終了10分前とかに来たら、まだ前に受付している人がいて、
そこで渡すタイミングを見れたかもしれない。
まぁ、大切な友人の式に遅刻しないのは無論だけど、
そういうところにも、2人に対しての想いが現れると自分は思うんだけどな」私「いかんせん君は、こんなカタチで水を差してしまったんだ。
まるでお前らの結婚式はただ飯レベルなものだと、
君が思っていなくてもそう捉えられかねない。
2人の結婚式に泥を塗る侮辱的な行為だよ?
ハッキリ言うけど、皆、呆れて言葉を失ったさ。
結婚式にご祝儀も払わず、ブロッコリートスまで受けて、にこやかに写真まで撮って、
あまつさえ披露宴まで出て美味しい食事まで頂いて。。
一体どんな顔して、式に出たんだい。
結婚式はタダじゃないんだよ。
準備もお金も、何より想いがいっぱい込められている。
彼らの門出をお祝いする大切なイベントなんだ。」半分、私は自分のことのように思いつつ、悔しさ滲ませて話していました。
情けないですが、涙目になっていました。彼は静かに、どこか気まずそうに聞いています。
私「前代未聞だよ。
無礼な行いだということを自覚しなければいけないよ?
本当に彼らをお祝いする気持ちはあった?」
U「その気持ちは嘘ではない」
私「…まぁ、君だってA君の友達だし、嘘だとは思わないけど、そう思われてるんだよ。
I君も言ってたけど、君はお祝いしようと来たのではなく、
呼ばれたから来たんだとね。
意味分かるよね?」
U「そう思われても仕方ないことをした。すまない」
私「謝るのは俺にではなく、A君夫妻だよ。
実はこの前、皆と食事に行って、そのことを聞いた。
正直、アタマが真っ白になったし、理解不能だった。
そして物凄く憤りを感じた。
ぶっちゃけ、俺のほうがAの親友だという自信というか思い入れが強い。
大切な親友を侮辱されたその振る舞いに、Aの親友としてめちゃくちゃ腹が立った。
絶対にこのままではいけないと思い、一言言わなければいけないと奮った。
でも、君も俺の大事な親友だから、一方的に怒りをぶつけるのではなく、
何があったかを対話しながら聞きたかったから、
今日時間をとって直接会いにここに来た」
おそらく、私はこの時点で彼を攻めているよう見えたかもしれません。
しかし未だ、私の中では当初想像していた、
取り乱し、ヒートアップして𠮟りつけるような状況ではなく、
むしろ驚くほど冷静に淡々と話していました。
それどころか、悔しさはありますが笑顔を交えつつ、
彼に少しでも聞きやすいようにしようという余裕さえあったのです。
驚きです。
続く~
[K.K]