上野動物園の18歳のアジアゾウが妊娠しているそうです。
ゾウの妊娠期間は約2年だそうで、予定日は来年7月頃とのこと、
まだまだ先ではありますが、いずれにしても、おめでたいことです。
ゾウの妊娠は、1882年開園の上野動物園でも初めての事例だそうですが、
そもそも、国内全体でも10例ほどしか成功例がないということで、
なるほど、ゾウの妊娠というのがいかに難しいかが分かります。
しかし、ゾウの妊娠が難しいとは言っても、野生では普通に繁殖しているはずです。
まぁ、ゾウというのはもともと森林や草原をノシノシ歩いているものでしょうから、
果たして、そんな動物園のコンクリートの狭い筐体で飼われて幸せなのかという、
動物園に関する根本的な問題は別にして、
動物園での繁殖が難しいのは何故なのでしょうか。
ゾウの身体が大きくて、飼育が難しいとか、発情期が短くて時期が難しいなど、
物理的な理由はいくつかあるようですが、
先日、とある動物学者さんの話を聞く機会があり、
「そんなことより・・・」という根源的な一説をお聞きしました。
野生のゾウは、年増のメスのリーダーが群れを率いて生活しているそうですが、
この群れに所属できるのはメスと10才前後までのオスばかりで、
成熟したオスは群れから出て単独で暮らさなければならぬのだと言います。
そんな、女子寮みたいなシステムでどうやって繁殖するのかというと、
アグレッシブなオスが、深窓のメスめがけて、群れの外からちょっかいを掛け、
メスがそれに応じてオスを受け入れる形で、交尾が成立するのだそうです。
ま、日本古来の夜這いに近い雰囲気でしょうか。
そして、これが大事なのですが、
その、オスがやってきて、気に入ったメスにアプローチをかけ、
メスがそれを受け入れ、オスがメスの上にのしかかるというプロセスを、
群れに残った幼いオスが、一部始終、見て学んでいるのだそうです。
それ以降、交尾を終えたメスが約2年に渡る妊娠を経て出産し、
産まれた赤ちゃんゾウを、群れのみんなで支えあいながら育てる様子も体験し、
自然の摂理というか、こういうふうに子孫繁栄していくということを学ぶのだそうです。
ところが、動物園で産まれたゾウにとっては、見て学べるような群れはないため、
自分がすべてであり、社会性が学べないわけです。
つまり
交尾の方法が分からないんだそうです。
それどころか、交尾に至るアプローチも分からないし、
まんまと交尾を経て子ゾウが産まれても、その育て方すら分からないということで、
事実、動物園飼育のメスの親ゾウは、自分が何かを産み落としたことに動揺し、
産まれたばかりの子ゾウを攻撃して殺してしまったりするそうで、
パンダ同様、それは野生では見られない弊害なのだそうです。
ゾウの繁殖が難しいのは、飼育が難しいとか発情期管理が難しいなど、
理由はいくつかあるようですが、最大の理由はそれ、
ゾウが社会性を学ぶ機会がなく、
やり方が分からないからだそうです。
まぁ、何の話だ?ということを長々と書きましたが、
これって、ゾウの社会だけではないように思うのです。
このところの日本社会は、
去勢されたかのような覇気のない若者で溢れかえっています。
曰く、家とかクルマなどの物欲が薄いため、
金銭欲や出世欲が仕事のモチベーションにならず、
仕事に邁進するマインドにならないとか、
自分の生活の安寧だけを願いすぎて、
結婚したり子供を作ったりすることに消極的だとか、
そういう“何事も起きない人生”を望んでいる若者が多いようで、
ちょっと上の世代からすれば「大丈夫か」と思ったりするわけです。
理由として、いろいろあることはあるでしょう。
金銭欲や出世欲を持って一生懸命働いてみたところで給料は上がらず、
世の中の厳しさに退転して頑張ることを諦めたとか、
なけなしの金と時間を自分に全投入したいから独身でいたいとか、
同じ理由で、デートに使うお金がもったいないとか、
ざっくり言えば社会不安とか、
そういう、理由としてはいろいろあるのかもしれません。
しかし、私は、もしかしたらと思ったりするのです。
もしかして、幼少時から社会性を学ぶ機会が少なくて、
やり方が分からないのではないかしら、と。
いや、交尾の仕方が分からないのではないか、とまでは思いませんが、
「わが人生、これを成し遂げる」という志を立てる方法とか、
その志を実現していくために問われる自分自身の自己変革や、
そもそも、そういう志を立てることの大切ささえ、分からないのではないかしらと。
金銭欲や出世欲、それ自体が人生に必須とは思わないけれど、
自分の志を実現していくために、金銭や立場が必要なことはあり得ます。
伴侶の精神的な支えが必要な場面もあるでしょう。
人間はゾウとは違います。アンドリュー・カーネギーやジョン・ロックフェラーのように生きることも、自由です。
動物園のコンクリートの狭い筐体で飼われているゾウと違って、
どのような志を持って人生を生き抜くかは、本人に委ねられています。
それなのに、このところの若い人の、ゾウとの同質性はどうでしょうか。
交尾とか、やったことないことはしない、したくないという、おとなしさ。
ゾウは好きで飼われているわけではないのに、人間の若者は好きでそうしています。
ちょっと情緒的になってしまいましたが、
ゾウの繁殖を知って、翻って人間の情けなさを感じた今日この頃でした。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm23573263写真は本文とは関係ありません。[SE;KICHI]