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魅惑の・・・(13)

愛染明王についてしつこく質問される方に、立て続けに2人、出会いました。

おひとりは行政書士をやっていらっしゃるご婦人で、
先日、何かのツアーに乗っかって奈良の西大寺というお寺を訪れ、
そこで拝観した秘仏の愛染明王坐像が忘れられないのだとか。
なるほど、実は、西大寺というお寺は、仏像好きにしてみれば、
愛染といえば西大寺、西大寺といえば愛染というほどのお寺なので、
予備知識なく行かれたとはいえ、ご婦人、なかなかの慧眼です。

もうおひとりは占い師で、タロットカードを使っていらっしゃる方なのですが、
タロットカードというのは様々なデザインがあるのだそうで、
この方が使っていらっしゃるのは伝統的なデザインのカードではなく、
どういうつもりなのか、密教をモチーフとしたカード。
そこで出てくる愛染明王の仏教らしからぬ風貌に度肝を抜かれ、
これは何の仏様なのかと気になってしまったとのこと。

西大寺 愛染明王像
https://www.pinterest.jp/pin/661114420273275541/

そもそも、“愛染”という語彙は、「未亡人」シリーズの愛染恭子のせいか、
なんとなく淫靡というか、
良く言えばロマンチック、悪く言えば卑猥なイメージを連想しがちです。

『愛染恭子の未亡人下宿』
http://blog.livedoor.jp/hidesmile/archives/cat_47306.html?p=3

まぁ、それは、「愛染」という漢訳と、
日本国内のイメージが合致していないからなのですが、
この愛染明王のすごいところは、実はそこにあります。

もともと、仏教は、金銭欲や名誉心、怠惰な心など、
様々な執着を断ちなさいと教えているわけですが、
そうは言ったって、
普通の人間は怠け者で自分に甘いので、
いきなり清らかに生きることはできません。


そのなかでも、特に断ちがたいのが、
恋慕する心なども含めた性欲である「愛欲」だとされていて、
まぁ、平たく言えば、衆生が仏法を信じないのは、
愛欲を抑えるのが難しいから
ということだそうです。

そこにきて、この愛染明王のすごいのは、
そもそも、愛欲に肯定的なところです。
おおよそ動物の愛欲というのは、
子孫を残すために、異性を見たら発情するようにできているわけなので、
社会が維持繁栄するために、本能に従った性欲的なものは不可欠なはず。
愛染明王は、この本能的な興奮を肯定し、
それを悟りへの原動力に昇華しようとするわけです。
人々は煩悩に溺れ、心は千々に乱れることも多いわけですが、
そんなことに使うエネルギーがあるなら、
煩悩パワーで悟りの道を切り拓こうということです。

そこまで清く生きられない私たちに対し、理解がありますね。
厳しい担任の先生の目を盗んで助け舟を出してくれる、優しい副担任のようです。
愛欲を否定しないので、話の分かるセンコーだってことで、
遊女というか、水商売の方からの信仰が篤いのでした。

まぁ、鎌倉時代の儀軌によれば、愛染明王の密号は「離愛金剛」ですからね。
“離愛”というのは、“愛”から“離”れると書きますが、
ここでの“愛”というのは、いわゆる“渇愛”、
それは、喉の渇きのような、「欲しい欲しい」と貪る愛のことで、
つまり、“離愛”というのは、“渇愛”から“離”れる、
いわば、「煩悩から自由になれ」ということだと言えるでしょう。

そんな、優しい愛染先生ですが、
見た目は相当イカついです。
もともと愛を表現した仏ですからね、
その身体は真紅であり、後背に日輪を背負っています。
一面六臂の忿怒相で、頭にはどのような苦難にも挫折しない強さを表す獅子の冠をかぶり、
叡知を収めた宝瓶の上に咲く蓮の華の上に座るという、
他に類のない姿をしています。
ハマったらたまらない感じです。

最後に、オススメをご紹介しておきますね。

なんといっても西大寺(奈良)
それから、愛染堂勝鬘院(大阪)金剛三昧院(和歌山)神童寺(京都)覚園寺(神奈川)

一生に一度くらいは
見ておいて損はないと思いますよ。


[SE;KICHI]
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魅惑の・・・(12)

ちょっと変な話を聞きました。
『七福神めぐり』が流行っているのだそうです。

たとえば、四国の“お遍路さん”は、徳島県の霊山寺から香川県の大窪寺まで、
四国4県に散らばる88箇所の寺を巡るのがひとつのパターンです。
“西国三十三所”は和歌山から京都、姫路、舞鶴を経由して岐阜までの33箇所の寺を、
“坂東三十三所”は鎌倉から埼玉を経て、群馬、茨城を経て千葉に至る33箇所の寺を、
順番に巡りながら御朱印をいただくもので、
どれも、移動距離としては1,000kmを超えるそうで、なかなかのものです。
これらの札所は、もちろん、極楽往生を望む衆生に向けた信仰の形ですが、
庶民にとっての旅行コースという側面もあったでしょう。

しかし、このコロナ禍で、そんな物見遊山なことはしておられません。
いや、別にコロナ禍でも寺に参ってはいけないということはないはずですが、
33箇所とか88箇所を巡る旅に行くとなれば、人目を気にするものなのでしょう、
何より、自分が良くても親類縁者に止められたりするのかもしれません。
そこで人気が出たのが『七福神めぐり』なのだそう。
なにしろ、7人しかいませんからね、7か所で終わりなので気軽です。

しかし、七福神、不思議なユニットですよね。

七福神
https://niceillust.com/%e5%95%86%e7%94%a8%e3%83%95%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%bb%e7%84%a1%e6%96%99%e3%82%a4%e3%83%a9%e3%82%b9%e3%83%88_%e4%b8%83%e7%a6%8f%e7%a5%9e%e5%85%a8%e5%93%a1%e3%81%ae%e3%82%a4%e3%83%a9%e3%82%b9%e3%83%88_/

みなさん、この7人、全員言えますか?

この絵で言えば、上段の左側にいるのが大黒天
米俵に乗り、白い袋を担いでいて、打ち出の小槌を持っていて、
もう、見るからに「福の神」というビジュアルですが、もともとは軍神でした。
というのも、大黒天はヒンドゥー教のシヴァ神が日本に上陸したもので、
「いまは温厚だけど昔はワルだった」を地で行く神様です。

同じく上段の右側に描かれているのが恵比寿
七福神のなかでは唯一の日本出身の神様です。
釣竿を持って鯛を抱えているので、漁師さんからの信仰が篤く、
結果的に、漁業サイドから福をもたらすスタイルの神様です。
なお、恵比寿は耳が遠いそうで、ドラを叩いて祈願しなくてはならないそうです。

この、大黒天と恵比寿が、七福神での不動の2トップです。
10年ほど前のAKB48で言えば、前田敦子と大島優子です。

あと、有名なのは、前列左から3人目、槍を持っている軍神がいますが、
それが毘沙門天で、武装して左手に塔を持っているのが特徴です。
もともとはヒンドゥー教出身で、そちらでは福徳増進の神様でしたが、
日本に来てからは鎧を身に着け、戦勝の神様になりました。
この毘沙門天は、ほかに『四天王』というユニットにも所属してリーダーを務めており、
そっちでは「多聞天」を名乗っています。
AKBでもHKTでも活躍して成り上がった指原莉乃のようです。

その左隣の琵琶を持った女神は弁財天です。
元はインドのヒンドゥー教の女神であるサラスヴァティー神で、
仏教に取り入れられ、音楽・弁才・財福・知恵の徳のある女神となりました。
それにしても、6人のおじさんたちの中で紅一点、
貞操の危機のようなものは感じないものなのでしょうか。
しかも、ほぼ裸みたいなおじさんもいる中で、果たしてどういう気分なのでしょうか。

その、ほぼ裸みたいなおじさん、後列の中央が布袋です。
唐の末期に実在したといわれる仏教の禅僧で、七福神中唯一の実在です。
確かに裸なのですが、その太っておおらかな風貌が好まれ、
持っている袋から財を出し与えてくれると信じられてきました。
三の線を一手に引き受けていた峯岸みなみみたいな感じでしょうか。

さて、問題は前列の左端と右端の、ほぼ同じビジュアルの老人2人です。
この絵でも、目や眉毛の感じはコピペのようです。

左端の、シカを連れて、手に桃を持っているのが寿老人です。
道教の神で、南極老人星の化身とされています。
一方、右端の、ツルを連れて、杖に巻物を結わえているのが福禄寿です。
この福禄寿も道教の神で、南極老人星の化身とされています。
……ん? どっちも南極老人星の化身って、どういうこと?
というわけで、このよく似た老人2人、同一人物かと思われて、
福禄寿のほうが七福神から外されていた時期もありました。
それはいいのですが、その時期、その空いた席に誰が座っていたかというと、
能の演目でもおなじみの「猩猩」が加えられていました。
猩猩って、毛むくじゃらの犬みたいなもので、
もし七福神にプロデューサーがいたなら、センスを疑わざるを得ません。

最後に、オススメをご紹介しておきますね。

と言っても、七福神としての古い造像はありません。
ソロ活動している2神については、
毘沙門天として、成島毘沙門堂(岩手)鞍馬寺(京都)安養寺(岡山)
弁財天としては、なんといっても寶嚴寺(滋賀)ですかね。
それよりも何よりも、参拝しやすくまとめられた各地の七福神巡り。
仏像を拝観する巡拝にはなりませんが、
なにしろ7箇所で満行できる手軽さと、それなりの達成感は、
イマドキのニーズに合っているのかもしれません。

一生に一度くらいは
“巡って”おいて損はないと思いますよ。


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魅惑の・・・(11)

あらら、2020年は書いていませんでしたね。

「お釈迦さま」って、よく聞きますよね。
パンチパーマの仏像を見たらお釈迦さまだと思う人も多いのでしょうか、
仏さまの代名詞のような扱いになっているのが「お釈迦さま」です。

この「お釈迦さま」、正式には釈迦如来と呼びますが、
仏像のなかで、唯一、
実在した人物を表現しているのが、この釈迦如来です。

“如来”というのは「悟った人」というような意味で、役職名みたいなものですが、
“釈迦”のほうは、釈の字も迦の字も特に深い意味はなく、
シャカ族という、現在のインドとネパールの国境近くに住んでいた部族の名前を、
漢訳といって、わざわざ漢字で表現しただけのものです。
つまり、釈迦如来って、「シャカ族の悟った人」という意味になります。
そのネーミングだと該当者が何人いても大丈夫な感じもしますが、
具体的には、紀元前5世紀前後に実在していたシャカ族の皇子で、
ゴータマ・シッダールタ( गौतम सिद्धार्थ )という個人を指しています。

皇子なので、おそらく左うちわでの生活が保障されていたと思うのですが、
彼はなぜか求道家であり、王宮での酒池肉林に虚しさを感じて、
皇位も妻子も捨てて出奔したのでした。
そして、いろいろな仙人の弟子になったり、苦行林(という場所)で肉体行に励んだりして、
7年ほどの歳月をかけて修行して悟りを開いたのが、仏教の始まりで、
釈迦如来というのは、つまり、創始者を神格化したものというわけです。

その後、本人没後に、
「悟った人(“如来”)がひとりだけとか、おかしくね?」ということになり、
薬師如来やら阿弥陀如来やらの同僚が生み出され、
「あと、もう少しで悟れそうな後輩とかもいたほうがそれっぽくね?」から、
「じゃあさ、その後輩、変身が得意な設定とか、どうよ?」とか、
「どうせなら、もっとスケール大きい、宇宙神とか出そうぜ!」なんて、
脚本をいじってるうちに登場人物が増えたというのが、いまの仏教の世界観です。

よく、キン肉マンとか、魁!!男塾とか、もしかしたらドラゴンボールなども、
仏教の世界観に似ていると言われることがあります。
まぁ、たくさんの個性的なキャラクターが登場し、
それぞれの個性を生かして敵(仏教だと迷いとか執着)と対峙するという構造は、
たしかに似ている面もあるとは感じますが、
それよりも、おそらく、世界観を広げようとしたときに、
必要に応じてキャラクターを追加しつつ全体を統合しようとした手法が、
なんとなく仏教とそれらとの共通点なのかなという気がします。

さて、釈迦如来は、なにしろ実在の人物がモチーフですから、
キャラクター設定が多彩というか、緻密で、
生まれたての姿や苦行中のガリガリに痩せた姿から、
菩提樹の下で瞑想している姿や亡くなる直前で横になっている姿まで、
それはそれは、人生のさまざまなシーンを切り取られています。
それぞれのモチーフで仏像が作られるので、
如来の仏像としてはパターンの多い種といえると思います。

また、世界観拡大のなかで釈迦如来には弟子が登場しており、
左右に文殊菩薩と普賢菩薩を従えた三尊で作られることもあります。
それもまた、ヘルクラウダー + ベビークラウド みたいな感じで、
ドラゴンクエストを彷彿とさせます。
しかも、ビジュアル的にも、
文殊菩薩は獅子に乗っており、普賢菩薩はゾウに乗っているなど、
そのダイナミックな造像も魅力のひとつになっています。

最後に、オススメをご紹介しておきますね。

8年前にもチラッと紹介させていただいた、白鳳仏の蟹満寺(京都)
体内に布で作った内臓が収められ、生身仏として祀られてきた清涼寺(京都)
平安期の国宝・釈迦如来像を2体も有する室生寺(奈良)

それから、生まれたばかりの姿を表現している誕生仏を擁する東大寺(奈良)
厳しい修行でガリガリになった姿を表現した苦行像を祀っている建長寺(神奈川)
それから、亡くなる直前の寝そべった姿を表現した涅槃像を安置する法隆寺(奈良)

また、椅子に腰を下ろした白鳳期の像が特徴的な深大寺(東京)も有名ですし、
ちょっと前に紹介した飛鳥寺(奈良)の飛鳥大仏も釈迦如来ですね。

一生に一度くらいは
見ておいて損はないと思いますよ。


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魅惑の・・・(10)

今回は、2012年3月に投稿した観音菩薩の話の続きです。

この観音菩薩という仏さまの最大の特徴は、変身ができること。
それってくだらない能力のようにも見えますが、
ママに怒られても言うことを聞かない子供がパパに怒られるとシュンとするように、
相手が変わると素直に従えることもあるというもの。
そういう方便のために、求められればどんな姿にもなって人々を救おうと決意し、
変身できるようになったのが観音菩薩なのです。
少し前に紹介した如意輪観音も、その変身パターンのひとつですし、
ほかに、千手観音や十一面観音なども知られています。

で、今回は十一面観音のお話です。
十一面観音は、苦しんでいる人をすぐに見つけるために頭の上に11の顔があり、
全方向を見守っているとされています。
また、それぞれの顔は、人々をなだめたり怒ったり、励ましたり、
それぞれに別の役目をするのだと説かれています。

十一面観音は、顔は多いものの腕がたくさんあったりはせず、
首から下は、私たち普通の人間と同じようなビジュアルになっています。
そのため、肉体に違和感を感じさせることなく造形美を追求しやすいようで、
仏像としては奈良時代の昔から人気があって、多くの作例が遺されています。
十一面観音で国宝に指定されているのは7躯ですが、
そのうち、よく筆頭に挙げられるのが、渡岸寺の十一面観音立像。

渡岸寺 十一面観音立像http://www.kokokujitanbo.com/takatuki-14-2.htm

像高は195cmで、ほぼ等身大ですが、上部20cmほどは十一面が占めています。
パースから見て、11の面のひとつひとつは握りこぶし大といったところでしょう。
想像するになかなか重そうで、肩こりが心配になります。
しかし、肩こりを感じさせない鼻筋の通った精悍な顔立ちに柔らかなプロポーション。
特に腰のくねりからは、実に妖艶な雰囲気が漂っています。
……どうでしょうか、往年の河内桃子とか、そういう感じです。

さて、十一面観音の頭上の正面には、
まず、阿弥陀如来のミニチュアのような「化仏(けぶつ)」がついています。
これはこの観音が阿弥陀如来の化身だということを示しています。
観音菩薩というのは阿弥陀如来ファミリーの一員なので、この化仏はデフォルトです。
そして、それ以外に、十一面観音の頭の上の顔には5種類の表情があります。
頭頂に1つだけあるのが「仏頂面(ぶっちょうめん)」。
仏頂面(ぶっちょうづら)という表情がありますが、実はそれは悟りの表情ということで、
何が起きても動じなさそうな無表情になっています。
次に、本面のちょうど額の部分にあたる前3面が「菩薩面(ぼさつめん)」。
まぁ、いわば、正攻法での穏やかな導きを担当している優しいお顔で、
“観音といえば”というような表情として正面に配置されるのも納得です。
続いて、左のこめかみあたりについている3面は「瞋怒面(しんぬめん)」。
世の中、優しく諭してもヘラヘラして言うことを聞かぬ者というのはいるものです。
そういうバカ者を「ゴルァ」と戒める、怒った顔をしています。
そして、右側の3面が「狗牙上出面(くげじょうしゅつめん)」。
“牙”ってなんか怖っ!と感じますが、牙って、爽やかな白い歯のこと。
頑張っている人に白い歯をチラリと見せる、微笑みの表情。
そして背後の1面を「暴悪大笑面(ぼうまくたいしょうめん)」といい、全部合わせて11面です。

ところで、この背後の1面、暴悪大笑面。
煩悩だらけの人の悪行や屁理屈を笑い飛ばす表情とされていますが、
字面からしても、“悪を暴いて大笑い”……ということで、
なんでしょうか、すべてお見通しの水戸黄門みたいな感じでしょうか。
いずれにせよ、愚かすぎる人間を笑っちゃっている表情と言われています。

ところが、この暴悪大笑面、なかなか見ることのできないものなのです。
そりゃそうですよね。
だいたい仏像は正面から鑑賞するようになっているものですから、
多くの寺院で、観音像の背後には回り込めない構造になっていて、
暴悪大笑面も見られないことが普通です。
また、見えても暗い堂内では表情がよくわからなかったりするもの。

しかし、こちらの渡岸寺は違います。
後頭部の暴悪大笑面が鑑賞できるよう、観音様の背後に通路があるうえ、
わざわざ大笑面にスポットライトまで当ててくださる暴悪大笑面推しなのです。
その顔がこちら。

暴悪大笑面http://kajipon.sakura.ne.jp/kt/butuzou2.htm

いかがでしょうか。
ちょっと……その……下品、じゃないですか?
前述の通り、これは、人の煩悩を笑い飛ばす表情とされていますが、
実際に誰かからこの顔で笑われたらムッとしてしまいそうな表情です。
何というか、朗らかでないというか、夢に出てきたら寝苦しそうな、
ちょっと、観音としての活動に支障はないのか心配になるような顔立ちです。
もしかして、この顔の不快さに、悪人たちも思わず改心してしまうのか?と、
あまりの表情にいらぬ邪推をしてしまうくらい。

ところで、私が不思議だなと思うのは、
なぜ、このようなものを考え出したのかということ。
だって、仏像がいまよりももっと人々の尊敬を集めていた時代、
仏像の背後に回って後頭部を見るなんて、そもそも罰当たりなことでしたから、
この暴悪大笑面を作ったところで、ほぼ人目に触れることがないはずです。
そんな、ほとんど人が見ない場所にバカ笑いする顔を彫る意味の分からなさ。

私のたどり着いた答えは、これは内心を表しているのだなということ。
正面から見たら菩薩面など穏やかな顔立ちをされている観音さまですが、
裏に回ってみれば、人々のしょうもなさにバカ笑いしちゃっている状態。
見られてないと思って……ということでもないでしょうが、
たぶん、見られることは想定していない素の表情、つまり本心です。
つまり、観音さまの本心は、
「見えてるところでは澄ましてるけどね、
ホンマは、みんなのしょうもなさに笑ろてしもてんねん」

ということなのでしょう。
なんか、そういう表情をさせてしまい、申し訳ないことです。

よく、悪を滅するには笑うが一番といいますが、
しかし、それにしては、気味の悪い表情です。
個人的には、瞋怒面で「ゴルァ」と凄まれるより、
こういう気味の悪い表情で嘲笑されるほうが、じわじわとダメージがあります。
こういう人があっちから近づいてきたら、怒ってる人の何倍も怖いですしね。

その他の国宝・十一面観音像について、ご紹介しておきます。

聖林寺(奈良)観音寺(京都)六波羅蜜寺(京都)道明寺(大阪)法華寺(奈良)室生寺(奈良) 造像年順

あと、国宝ではありませんが、背後から暴悪大笑面を見ることのできる十一面観音としては、斑鳩の法輪寺(奈良)があります。

一生に一度くらいは
見ておいて損はないと思いますよ。


[SE;KICHI]

怖い顔の秘密 ~魅惑の・・・(番外編)

現存する日本最古の仏像といえば飛鳥大仏ですよね。
609年ごろの完成ということですから、今年で1410歳。

飛鳥大仏
http://pippi-papa-from2008.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/post-3405.html

この飛鳥大仏、奈良・明日香村の飛鳥寺というところにいらっしゃるのですが、
写真が教科書などにもよく掲載されているので、
行ったことはなくとも、お顔を知っている方も多いことでしょう。
私も、教科書だったか資料集だったかの写真を見て、その顔貌の怖さになかなか足が向かず、
また、他に会いたい仏像がたくさんあったためについつい後回しとなり、
御朱印帖の記録によれば、ようやく訪れたのが平成13年。

飛鳥寺 ご朱印

私、昭和60年ごろから御朱印を集めているので、
平成13年といえばデビューから15年後ということになります。
飛鳥大仏、日本最古というビッグネームでありながら、
ずいぶん、ないがしろにされてきた感じですね、私から。

さて、日本最古の仏像である飛鳥大仏ですが、
国宝ではありません。

ちなみに、「国宝」という指定自体は明治期からもあったのですが、
戦後、1950年に文化財保護法が施行されたことにより、
それまでに指定された国宝を、すべて一旦「重要文化財」に改称したうえで、
そのなかから、特に価値の高いものを、改めて国宝として選びなおしました。
飛鳥大仏は旧国宝には指定されていたのですが、
いったん重要文化財になった後の指定からは漏れてしまい、
いまだに重要文化財にとどまっているというわけです。

飛鳥大仏が国宝指定から漏れたのは何故でしょうか。
これは私が小学生の時分に知った知識ですが、
永年の歴史のなかで、この飛鳥大仏は、後世の補修箇所が多くなっていて、
確か、最初に作られた7世紀当初の部分は、
目の周りと右手中央の指3本くらいしか残っていないという話でした。
そういえば、お顔にはブラックジャックのような継ぎ目がありますね、
ここで接合しましたよ、手術の傷跡ですよ、的な。

つまり、私が小学生だったころの通説は、
ほとんどオリジナルではないから国宝にはなれませんと、そういうことでしたが、
ここ1~2年の研究で、顔面の金属成分に偏りがないことが分かってきたそうです。
それは、すなわち、お顔は均一だということであり、
オリジナルであることが確認されている目の周りとも成分的に均一であることは、
顔が全体的にオリジナルであるということにほかなりません。
ブラックジャックの手術痕のような継ぎ目は単なる稚拙な技術の結果であり、
おそらく、鋳造時にできた穴などを埋めた跡ではないかとのことです。
これは旧来の通説が覆ることで、なかなかエキサイティングです。
そればかりか顔と胴体の金属組成はかなり似ていたとのこと。
合致ではないことから、顔と胴体が同時期の造像ではないと思われますが、
似ているというのはどういうことなんでしょうか。
これは私が勝手に思っているのですが、
震災や戦乱で胴体が破損した際に、壊れた素材をかき集め、
それを再利用する形で新しい胴体を改鋳したのではないでしょうか。
それだと、組成が似ていて、かつ同一でないという結果に説明がつくと思うのですが、
さて、どうでしょうか。

ともあれ、飛鳥大仏の頭部がほぼオリジナルであると分かった意義は大きいでしょう。
興福寺にある旧山田寺仏頭のように、頭部だけで国宝指定されている例もありますから、
この飛鳥大仏の頭部がオリジナルであると分かったということは、
突如、国宝指定に向けた障害がなくなったということに他なりません。

それに、だって、今年で1410歳なんですよ。
その顔の皮膚(というかそれを形成している金属ね)は1410年モノってことですよ。
人間の世界では、たかだか40年か50年で、
やれ“ドモホルンリンクル”だ、やれ“50の恵”だと騒がしいですが、
なんと言っても、1410年前からの顔なんですよ、飛鳥大仏。
ひゃああああ、もう想像を絶するロマンですよね。

いつもなら、最後に、オススメを・・・・・・となるところなのですが、
今回は飛鳥寺限定の話であるうえ、飛鳥寺にはホームページがないんですよ。
でも、明日香村は以前にも紹介した如意輪観音の優品のある橘寺や、
日本三大仏像のひとつに挙げられる西国第七番札所の岡寺など、
観るべきお寺が多いエリアですので、村全体がおすすめです。

一生に一度くらいは
見ておいて損はないと思いますよ。

というより、1410歳ですからね、見とかないと損ですよ。

[SE;KICHI]
プロフィール

kkseishin

Author:kkseishin
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私たちは工場設備機器を中心に、お客様にご提案・販売をしている総合商社です。

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